【作詞】大森靖子に学ぶ「歌詞の余白」の重要さ

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大森靖子さんのメジャーデビュー作である『きゅるきゅる』という曲、皆さん知っていますでしょうか?

この曲でたびたび登場する『きゅるきゅる』という言葉。この言葉、彼女が言うには『空っぽ』で、特に深い意味はないんだそう。

彼女は非凡な作詞の才能によってここまで有名になった人にもかかわらず、メジャーデビューソングという重要な曲のサビにこの言葉を使うということはそれなりの理由があったはず。

今回は、彼女がなぜそういった意味の薄い言葉を入れたのかという点から、作詞における余白の重要さについて皆さんにシェアしたいと思います。

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弾き語りとポップソング

彼女はメジャーデビューをするまでずっとギターでの弾き語りをメインに活動してきて、メジャーデビュー後はバックバンドや打ち込みを駆使した演奏というスタイルに変わっています。

『きゅるきゅる』はメジャー用に作られた楽曲で、メジャーデビュー前までの作風とは少し異なっているというわけです。

メジャーデビュー前のスタイルとしては、たくさんの言葉を詰めていくようなメロディと、いわゆる「パワーワード」を連発するような歌詞で、弾き語り界でも異端と言われるような存在として知られていました。

例えば以下の2曲が分かりやすいでしょう。

『魔法が使えないなら』

『Over The Party』(動画はバンドアレンジですが、もともとは弾き語り曲です)

冒頭の『きゅるきゅる』とは少し違った感じがしますよね。

なぜ彼女がこのような言葉数が多いスタイルになったのか、というのがインタビューでは度々語られています。

大森:弾き語りって、どんなにいい声といいメロディでも、どうしても聴いているうちに飽きてしまうんですよ。動きがないし、地味だから。そこで飽きさせないようにするために、ライブではお客さんを無理矢理に刺しにいくような歌詞を歌ってきました。

引用:SOUND DESIGNER (サウンドデザイナー) 2015年 01月号 大森靖子インタビュー

つまり、弾き語りではお客さんの意識を惹き付けるために言葉を増やし、心に刺さるような「パワーワード」を連発していたというわけです。

確かに弾き語りはバンドなど他の形態に比べて音量も小さいですし、ステージもそこまで派手ではないイメージがありますよね。

視覚や聴覚の刺激では他の音楽に比べると弱くなってしまうので、そのかわりに「強い言葉による脳への刺激」を洗練させていったということだと思います。

ではなぜ、冒頭で紹介したメジャーデビューソング『きゅるきゅる』では、わざわざ弱い言葉を使ったのか。

この点についてもいくつかのインタビューで語られています。

大森:弾き語りは音量も一定なので、どうしてもそうなっちゃう。それを回避するために私が武器にしていたのが言葉や歌い回しだったんですけど、音源にするときにはライブほどそれを大げさにする必要はないので、結構余白を作れるんですよ。音源の場合は、基本的にBGMにもならないとダメじゃないですか。だから、これまでの判断だと破壊力が弱いから使わなかった言葉でも、言いたいこととか、面白くて音的に遊べるものとかを結構自由に使えたので、むしろ制限なくできた感じです。

(中略)直枝さんとバンドをやると、彼は気持ちよくなっちゃって、長い間奏を続けるんです(笑)。最初は止めてくれって言ってたんですけど、「ここの余白がないと意外と聴けなかったりするよ」って言われて、「あ、そうなんだ!」って気付いてびっくりしました。(中略)

–アルバムの中では、余白的なポジションはどのあたりに?

大森:曲単位でもあるし、一曲の中にもあります。『きゅるきゅる』とかのサビは全部そうですね。最初にそれをやってみたかった。

引用:Real Sound『大森靖子が語る、新作をメジャーで出した意味 「人がぐちゃぐちゃに表現できる場所を増やしたい」

──でも普通のJ-POPには、そういう“弱い”言葉がたくさん入ってるわけですよね。

そう。余白がないとやっぱ聴けないんですよ、日本人って。

──冒頭では“甘さ”という言い方をしましたけど、それはJ-POPには必要な余白なのかもしれないですね。メロディも、Aメロからサビまで全部が強いメロディだと、やっぱり疲れてしまうだろうし。

わざとちょっと弱くするのってけっこう大変なんですけど、でもそっちのほうが気持ちよかったりするんですよ。弾き語りは最初から最後まで全部強くないとみんな寝ちゃうんですけど(笑)。

引用:音楽ナタリーインタビュー

まとめると、メジャーデビューソングである『きゅるきゅる』はこれまでの弾き語り的な作風とは違い、ポップソングとして作られているので、余白が必要になったということ。

メジャーデビューをきっかけにJ-POPを作ることになった彼女ですが、ポップソングでは、弾き語りよりも派手な伴奏が付きますし、音源がBGMになることを求められたりもします。

あまりにも歌詞が強いと聴き疲れてしまい、最後まで聴いてくれなくなってしまうかもしれないということでしょう。

そう考えてみると冒頭の『きゅるきゅる』という曲では、あえて意味が薄く耳に残るような言葉を使うことによって、何度も繰り返し聴きたくなってしまうような曲に仕上がっているように感じます。

伴奏+歌=100になるような作詞

さきほどの大森靖子さんのインタビューに語られていた「歌詞の余白」は、彼女の曲だけでなく、私たちが作詞をするときも考えたほうがよさそうですよね。

例えば普段はバンドサウンドの曲を作っていた人が、歌とギターで弾き語りの曲を作ることになったとき。

普段はバンド楽器の音や、メンバーのステージパフォーマンスに助けられていた部分がなくなり、歌とギターだけでお客さんを惹き付けなければいけません。

こういったときにはデビュー前の大森靖子さんのように、歌詞の情報量を増やしたり、あるいはギターの演奏を複雑にしたほうがお客さんは飽きずに聴けるでしょう。

逆に普段より伴奏が目立つ曲をつくるときなどには、歌詞や歌を控えめにすることによって、自然に伴奏が前に出てくるようになると思います。

重要なのは「伴奏+歌=100」となるように作詞作曲アレンジを調整していくことではないでしょうか。

伴奏が30のときには歌が70になるように歌詞とメロディを考えたり、伴奏が70のときには歌が30になるようにしたり。

大森靖子さんは、弾き語りからポップソングという伴奏の占める割合がかなり変化するメジャーデビューの仕方をしたので、作詞のスタイルを変える必要がありました。

私たちが作詞をするときにも伴奏の情報量によって作詞の深さや重さをコントロールすると良さそうですね。

もちろん曲中でも伴奏の情報量は変化しています。静かなBメロ、派手なサビなどはよくある楽曲の構成です。

作詞を始めたばかりのころはサビの歌詞の情報量を増やしてしまいがちですが、プロが作詞した曲を聴いてみると、意外にAメロやBメロに重要なワードが入っていることが多いのに気付きます。

これはつまり、伴奏の情報量が少ないAメロやBメロは歌詞の意味を聴かせ、伴奏が派手になるサビでは歌詞の意味よりも言葉としての音の響きを聞かせるように作詞しているということに他なりません。

このように一曲の中でも伴奏+歌=100になるように微調整をしたほうがいいのかもしれませんね。

まとめ

作詞をしていると、何か上手いことを言おうとしてついつい歌詞の情報量を増やしてしまいます。

ですが、歌詞は余白もやっぱり重要。

作詞といえども音楽を作っていることには変わりないので、伴奏を聴きながら歌詞をコントロールするスキルを身につけたいものですね。

それではこの辺で!

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